株の隣に何を置けば、ポートフォリオは強くなるのでしょうか。定番の債券、危機に強いと語られるゴールド、そして成長資産として存在感を増したビットコイン。同じ「株以外」でも、三つの役割は大きく違います。
全米株式ETFのVTIを基準に、米国総合債券BND、ゴールドETFのGLD、現物BTCの2015〜2025年の月次データを比較しました。リスクを抑えながら運用効率を上げたのはゴールド。小さな値動きへ配分を移すならBND。BTCは守りよりも、収益とリスクを上乗せする資産です。ただし全期間のシャープ最高値はBTCの組合せでした。「相性」を一つの順位にせず、何を改善したいかから選ぶのがこの記事の結論です。
株と債券が定番になり、ゴールドとBTCが加わった
株の成長と債券の収入を組み合わせる運用には長い歴史があります。Wellington Fundの公式報告書によれば、同ファンドは1929年7月1日に運用を開始しました。株式と債券を混ぜるバランス型運用は、ETFよりずっと前から続く考え方です。1952年のHarry Markowitzの「Portfolio Selection」は、資産単体ではなく相関を含む組合せ全体でリスクを評価する枠組みを示しました。
株と債券は企業利益や利息を受け取る資産です。一方、ゴールドは利息を生まず、通貨・インフレ・危機への備えとして語られてきました。金業界団体のWorld Gold Councilも、株式との関係が局面によって変わる点を分散の特徴として挙げています。今回の計算ではその主張を前提にせず、実際の相関と合成リスクを確かめます。
BTCはデジタル資産への普及期待が収益を左右し、株や債券と同じ現金収入を生みません。BlackRockの2024年12月の分析は、価格変動を受け入れ、普及を見込む投資家について1〜2%の配分を検討し、金額の比率よりリスクへの寄与に注目しました。これは60対40を基準にした分析で、今回のVTIとの二資産比較とは別の計算です。
債券はBND、金はGLDで比較する
BNDは米国の投資適格債券市場を幅広く対象にするETFで、国債、社債、住宅ローン関連債券などを含みます。今回は「債券全般」を代表させるため、超長期国債に特化したTLTではなくBNDを使います。金は金裏付けETFのGLD、BTCはBTC/USDの現物価格です。比較するのはVTI+BND、VTI+GLD、VTI+BTCの三つの二資産ポートフォリオで、四資産を同時に最適化する計算ではありません。
相関が低いのはゴールド。しかし相関だけでは決まらない
| 期間 | 株 / BND | 株 / GLD | 株 / BTC |
|---|---|---|---|
| 2015–2025 | +0.39 | +0.05 | +0.36 |
| 2015–2020 | +0.06 | -0.01 | +0.28 |
| 2021–2025 | +0.64 | +0.12 | +0.51 |
| 2022 | +0.68 | +0.20 | +0.57 |
2015〜2025年のVTIとの相関は、BNDが+0.39、GLDが+0.05、BTCが+0.36でした。ゴールドは月次の株式リターンとの連動がほぼゼロで、分散の材料として際立ちます。BTCも株と完全に同じではありませんが、相関が低めだから値動きを抑える、とは言えません。BTC自身の年率リスクは74.74%で、VTIの15.39%を大きく上回るからです。
合成リスクには相関だけでなく、それぞれの変動の大きさが効きます。二資産の分散は σₚ²=(1−w)²σ株²+w²σ相手²+2w(1−w)ρσ株σ相手。相関ρが小さくても、相手のσが大きければ全体の振れは増えます。BNDは相関がプラスでも、自身のリスクが5.02%と低いことで、株の振れを薄めます。
20%を混ぜると、三つの性格がはっきりする
| 組合せ | 年率リスク | 年率リターン | シャープ | 最大下落率 |
|---|---|---|---|---|
| VTI 100% | 15.39% | 12.91% | 0.74 | -24.82% |
| VTI 80% + BND 20% | 12.73% | 10.81% | 0.72 | -22.73% |
| VTI 80% + GLD 20% | 12.78% | 13.11% | 0.88 | -21.74% |
| VTI 80% + BTC 20% | 22.50% | 26.47% | 1.08 | -34.18% |




VTI単独の年率リスク15.39%に対し、20%をBNDへ移すと12.73%、GLDへ移すと12.78%。値動きの低下はほぼ同じでも、年率リターンはBNDで10.81%、GLDで13.11%でした。シャープもBNDの0.72に対しGLDは0.88。株のリターンを大きく手放さず、違う値動きを加えた点で、ゴールドが優位でした。
BTC20%ではリターンが26.47%へ上がる一方、リスクは22.50%、月末基準の最大下落率は−34.18%。株単独の最大下落率−24.82%より深くなりました。シャープ1.08という効率の高さと、損失が浅いことは別です。BTCの好成績は「株の下落を埋める守備力」ではなく、大きな成長リターンが大きな変動を上回った結果です。
少量のBTCでも、守りと成長を取り違えない




全期間では、BTCを2%加えてもリスクは15.39%から15.68%へ上がります。リターンは12.91%から14.30%、シャープは0.74から0.81へ改善しました。少量でも収益の上乗せはありますが、このデータではリスク最小点はBTC0%です。2021〜2025年でも同じ方向で、2%追加はリスク15.36%→15.70%、リターン13.07%→13.61%となりました。
「少し持つ」は、値動きが小さいという意味ではありません。Vanguardの2026年5月20日の解説も、代替資産は金額の配分ではなく、引き受けるリスクから考える姿勢を重視しています。BTCとBNDを同じ20%にすることは、同じ大きさのリスクを引き受けることではないのです。
シャープの山は、年代で動く




| 期間 | 組合せ相手 | 相手の比率 | 最大シャープ | その時のリスク |
|---|---|---|---|---|
| 2015–2025 | BND | 0.0% | 0.74 | 15.39% |
| 2015–2025 | GLD | 51.3% | 1.02 | 10.79% |
| 2015–2025 | BTC | 28.6% | 1.09 | 27.30% |
| 2021–2025 | BND | 0.0% | 0.68 | 15.36% |
| 2021–2025 | GLD | 62.8% | 1.13 | 11.32% |
| 2021–2025 | BTC | 15.3% | 0.74 | 19.49% |
全期間のシャープ最大点は、GLD51.3%で1.02、BTC28.6%で1.09。BTCの最高値が上ですが、その時のリスクは27.30%で、GLDの10.79%とは大差があります。一方2021〜2025年では、GLDの最高値1.13に対しBTCは0.74へ下がり、BTCの最大点は15.3%まで移動しました。全期間の結果には、BTCの初期の大きな上昇が強く効いています。
ゴールドの全期間のリスク最小点は53.4%で10.78%でした。BNDのリスク最小点は100%。これは株をゼロにすれば変動が小さくなるという端点であって、「株と最も相性がいい比率」を示すものではありません。こうした最大・最小は、同じ過去データから選んだ説明用の点です。投資配分は過去の山をそのままコピーするのではなく、欲しい成長と許容する下落から決めます。
2022年に何が起きたかを、分散の試験にする
2022年の単体リターンはVTI−19.52%、BND−13.11%、GLD−0.77%、BTC−64.15%でした。20%を組み合わせた年間リターンは、BNDで−18.07%、GLDで−15.70%、BTCで−29.90%。この年はゴールドの小さな下落が株の損失を薄め、債券の防御は限定的で、BTCは下落を深くしました。
相関もBND+0.68、BTC+0.57まで高まりました。株と違う資産を持っていても、同じ資金環境の圧力で下がることがあります。だから、普段の相関だけでなく、下落局面の損失と回復も見る必要があります。2022年のシャープはどの組合せもマイナスなので、その数値の順位より、損失の浅さを読むほうが役割をつかめます。
このボードでVTI・BND・ゴールドを毎日並べる
まずVTI、BND、ゴールドの三つを隣に置きます。株が下がりBNDが上がるなら、債券が相殺役になっている形。株とBNDがともに下がって金が強いなら、金利・通貨・不安に対する三者の反応の違いを確認できます。BTCも追加すると、株の下落時に独自に耐えるのか、同じ方向へより大きく動くのかが見えてきます。
米国債10年金利を加えれば、債券価格が金利とどう反応したかを追えます。ドル円を加えれば、円建てで見た米国資産の共通の為替要因も分けられます。下落した日に逆向きかだけでなく、反発の速さや高値回復の順番を見ると、保有する意味が具体的になります。自分用の比較タブを作り、グラフの順番と配色を揃えるのも有効です。
VTI・BNDは通常市場の基準値、ゴールド・BTCは24時間の基準値を使うため、画面の騰落率は出発点が同じとは限りません。同じ時刻帯の線の動きと価格時刻を見比べ、日々の表示から統計的な相関を決めつけないことがコツです。また、この記事の金は長期分析用のGLDで、ボードのゴールド価格指標とは商品が異なります。日々の形を観察するボードと、分配金込みの長期配分計算を組み合わせて使いましょう。
計算方法とデータ
期間は2015年1月〜2025年12月の132か月。Yahoo FinanceのVTI・BND・GLDの分配金・分割調整後価格とBTC/USDの価格を用い、各月のETF共通の最終取引日にBTCも合わせました。2014年12月を起点に、欠損や補間のない月次リターンを計算しています。同じ暦日ですがETFは米国市場終値、BTCはUTC日次バーで、厳密に同一時刻の価格ではありません。
米ドル建て、借入なし、各相手の比率を0〜100%・0.1ポイント刻みで毎月リバランスする仮想比較です。税金・追加の売買費用・BTCの保管費用は含めず、ETFの内部経費は価格に反映されます。BTCの貸付利息は加算しません。相関は月次Pearson係数、合成リスクは標本標準偏差×√12、年率リターンは複利CAGR。シャープは前月のFRED TB3MS÷1200を現金収益の近似として引き、超過リターンの平均÷標準偏差×√12です。最大下落率は開始資産1を含めた月末の高値から測り、日中の下落は含みません。2022年は2021〜2025年に重なるストレス例。取得・計算日は2026年10月5日です。
データと参考資料
- Yahoo Finance — VTI historical prices
- Yahoo Finance — BND historical prices
- Yahoo Finance — GLD historical prices
- Yahoo Finance — BTC/USD historical prices
- Federal Reserve / FRED — three-month Treasury bill rate
- Vanguard — BND
- SPDR — Gold Shares
- BlackRock — Sizing Bitcoin in portfolios (December 2024)
- Vanguard — Alternatives: role, risk and realism (May 2026)








